「やさしさ」を考えてみた

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 私が敬愛する何人かの友人に「ウォンさんは優しすぎるよ」と指摘される。これを翻訳すると「ウォンは自分に嘘を付いている」ということになる。もうちょっと受け入れやすい言葉で言うならば「相手の想い、希望、あるいはエゴ、無自覚な私への侵襲、あるいは本人が嘘を付いている状態を肯定し、受け入れようとする。そして本当に感じていることを言わない、表現しない。それは嘘を付いていることに等しい」ということだろうか。その指摘は、当たっていて、最近、つらつらとそのことを考えている。

 私は優しくなんかない。優しく振舞おうとはする。相手を肯定したり、受け入れようとしたりしながら、でも結局肯定も受容も出来ないでいる。つまり、結果的に嘘は付けないのだ。他人ごとなら優しくなれる。関係性に距離があるなら、仮面は剥がされることはない。でも自分自身に振りかかることは、結局嘘などつくことは出来ない。

 例えば音楽という場では、嘘は付けない。出来るわけがない。音楽を演奏する、作曲をするということは、たましいが裸になることに近い。素肌丸出しになるのだ。だからとても傷つきやすい。自分の音楽をなんとか保つために、音楽に魂を注いでいる音楽家ほど、ぎりぎりの綱渡りを強いられている。なので、そのような場では優しいふりなど、いつかすっ飛んでしまうのだ。つまり、自分のエゴを統合できずに、結局傷つけ合うことになる。私は音楽歴は長いほうだと思うが、一緒に演奏を続けている音楽仲間は思いのほか少ない。自分自身を委ねられる仲間がとても少ないということだ。そんな仲間でさえも、長い間に何度も別れたり、再会したりしているのだ。

 真にクリエイティブな関係とは、相手の本質を理解し、咀嚼し、お互いに自分に嘘をつかずに、相手に対して感じていることを、しっかり向かって伝えること。でも、なかなか難しいことだと思う。必ず傷つくことになるから。だからお互いに強さを求められることになる。仮面を脱ぎ捨て、素肌を見せ合うほど自分自身になりながら、傷ついても尚且つ、関係性を再生できる強さが、やはり必要なのだろう。

 強さとは、たとえ傷ついたり、自我が揺さぶられても、自分を再生させることが出来る、蘇生力だろうか。傷つかないでいることなど出来ないし、揺さぶられないなんてこともない。必ず傷つくし、揺さぶられる。それでも蘇生する力とは、実は今を生きることにつながっていく。過去を引きずらないで、手放し、もう一度立ち上がることにほかならない。こんな風に書くと、無理に立ち上がろうとする人が出てくるかもしれないからエクスキューズすると、過去を統合した上で手放す。統合するための時間や思考の超越は、やはり必要なのだろうと思う。

 ワークショップという場を考えてみる。人は自分で言うほど自己変革をしたいとは、思っていない。出来れば自分に向かわないで済むなら、済ませたいのが人間だ。私もそうだ。しかし、それでも自己変革の場に出向くエネルギーのある人と、そうでない人がいる。わざわざ出向いてくる人は、やはり変革への思いが強いのだろう。しかしワーク中に、自己変革の扉を開けられるほど切迫していても、それでも、様々な理由をつけて、変革をためらうのが人間だ。変革するその先が見えないことは、ほんとうに怖いのだ。私はそういう参加者の近くにいて、まだ変革のタイミングに来ていないのだ、と考えて見逃してしまうのか、それとも否が応でも扉の向こうに押し込んでしまうのか、、、私はいつも前者だ。すると師匠が言う「ウォンさん、優しすぎるよ」

 私にはまだわからない。人の変革の場に、いったい私になにができるのだろう。私は自分の独善が怖いのだ。もしかしてそのタイミングではないのに過剰に介入して、つまり変革のタイミングを見誤ることによって相手を傷つけることが、怖いのだ。恐れを超えて、自己の魂の声に従うこと、それが出来るようになったなら、私にとっての自己変革が訪れるのかもしれない。

 優しさとはなんだろう。それは魂のひとつの側面、ひとつ表現にすぎないのではないだろうか。魂には、怒りや悲しみや喜びや心地よさを、感じ、そして表現しようとするエネルギーが宿っている。魂の躍動の強度が高まれば、自ずと表現の色彩も鮮やかになっていく。優しさは魂の全てではないのだ。優しさだけでは魂は成り立たないのだ。魂の強度が高まれば、自ずと表現される、その一つの側面が優しさなのではないだろうか。優しさは愛の眼差しの表現であり、怒りは愛が踏みにじらることへの表現であり、悲しみとは愛の喪失の表現であり、楽とは愛に漂うことの表現なのだ。そのすべての側面を十全に表現しうることが、魂が開放されているということなのだと思う。「優しさ」と言う言葉を契機に、つらつらとそんなことを考えてみた。

ウォンウィンツァン
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