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<夢のヒーリング>ウォンウィンツァン

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 コンサートを終えて、なんとか最終の新幹線に飛び乗ることが出来た。
年末ということもあって車内は乗客でごった返していた。
一つだけ空いていた席に美枝子を座らせ、私は通路に立った。
風邪と疲労で立っているのがやっとだったけど、風邪は美枝子のほうが重かったし、なんとなく立っていたかった。

 マスクの下でゴホゴホとやっていると、一人の女性が他の乗客をかき分けて私に近づいてきた。
「もしかして、ピアニストのウォンさんですよね。私、フアンなんです」 
その女性の声はそれなりに大きかったので、周りの乗客は私をジロジロ見ながら「知らないな〜」とでも言いたげだった。
私的には疲労と風邪で相手にするのも面倒だ。
中途半端に有名だと本当に面倒だ、、、

 女性は私が風邪であることを察し
「ウォンさん、私ヒーラーなんです。是非私にエネルギーを送らせてください。きっと良くなる。」
そう言うと、いきなり私に手をかざし、何やら口でモグモグ言いながらイキミ始めた。
周りの乗客は、呆れた風で何とも言えない気配が立ち込めて、わたしも困り果ててしまった。

 私は突然、彼女の手をとって、語り始めた。
「いや、いいんです。私は治りたくないんです。
いいですか。私の魂が風邪で居たいと言っているんですよ。」
すると彼女は驚いたようにキョトンとしている。
私は優しく彼女の肩に手をおいて、話し始めた。
「私は魂の赴くままに生きているんですよ。
魂の赴くままコンサートをし、人を愛し、そして魂の赴くまま風邪をひいているんです。」
彼女の顔はますます不思議そうだ。
「例えば幼稚園の子供達は、魂の赴くまま遊び、踊り、歌い、そして風邪をひくよね。
でも、人は大人になるに連れ魂の赴くままには生きられなくなる。
勉強しなくてはいけない、感情を表してはいけない、働かねばいけない、風邪をひいてはいけない、健康でなければいけない。
そうやっていつの間にか、魂の意志にそって生きていくことを忘れてしまうんだ。
皆ゾンビになってしまうんだよ。
そうなると人は生きづらく、不安を抱えながら生きていかねばならなくなるんだよ。」

 彼女はようやく何かに気づき始めている。
「例えば君も、ご両親に愛されて、でも自由に生きることを許されなかった。なのでいつの間にか自分が誰だかわからなくなっちゃったよね。」
彼女の目は自分を見つめ始めている。
「親の言うことを聞いている時は愛されて、自分らしく生きようとすると認められなかった。
そうしている内に見捨てられることの不安と、強い承認願望に揺れる日々になっちゃった。
そんなときに出会ったのがヒーラーの道だったのかもしれない。」

 彼女は言い当てられてのだろう。
私を見てうなずいた。「でもね、どんなにスピリチュアルな目覚めがあっても、マインドは昔のまま、、
見捨てられ不安と、認められたい願望に振り回されて、それでは自分を取り戻せているとは言えないんだよ。
ありのままの自分ではないからね、、、
だからヒーリングに一生懸命になって、人を癒やし、そうすることによって自己イメージを高めようとした。
でも、いつも揺らいでいるんだよ」
どうもその通りだったようで彼女は涙ぐみ始めた。

 「もういいんだよ。過去の呪縛を解く時が来たんだ。
君は君のママで生きるんだ。
たましいの赴くままに生きれば、人に認められようが関係ない。
無意識の奥底に巣食ってしまった呪縛を、一つ一つ丁寧に手放していけばいい。
大変なことじゃない。
いそがないで毎日薄皮をはぐように、一つ一つに感謝してさよならを言おう。
そんなある時、自分が魂の赴くまま生きていることに気づき、生きていることを心から謳歌することができるようになる。
だいじょうぶ、そうなるよ。」

 彼女は涙ぐみながら頷いていた。
私はソッと彼女を引き寄せて、ハグをしてあげた。
彼女は泣きながらハグを返してきた。
素敵な瞬間だった。
乗客たちはどこかで話を聞いていたのだろうか。
身に覚えがある人がほとんどだろうけど、彼らが話をどう受け止めたのかは私のあずかり知らないことだ。
だが、突然私はやけにキツイ視線を感じて現実に引き戻された。
「おいおい、このスケベオヤジが〜〜」
おっと〜〜 私は女性を引き剥がしながら「まあ、魂の赴くまま行動してはいけない時もあるけどね、、、」などと弁解した時、夢が覚めたのだった。。。。
おわり、、、

ウォン・ウィンツァン
2015-12-29