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昨夜、キース・ジャレットのソロコンサートを、渋谷のオーチャードホールに聴きに行きました。私は勿論キースの大フアンで大きく影響されました。彼がデビューした当時から今までの殆どのLPやCDを持っているし、「Facing you」とか「Samewhere before」「ケルン・コンサート」とか死ぬほど聞いた。でも、なぜかコンサートは20代後半に一回行ったきり。武道館の天井桟敷の一番奥に座って、ほとんど聞き取れない生音、外の犬の鳴き声や鐘や車の音のほうが大きい。途中で断念して出ていってしまったので、結局聴いた事にはならなかった。ですので、本格的に聞くのは、今回が最初といっていいですね。

聴きに行こうと奥さんに誘われて、あまり気乗りしなかったのですが(どうせ打ちのめされるからww)、でも友人のお父さんが設計したオーチャードホールで、CDばかりで聴いているキースの音が、どんなふうに聴こえるか、やはり確認せねばと、ツツジが咲き誇る新しい環状六号線を、スーパームーンを引き連れて、渋谷に向かったのでした。

さて、開演時間まで時間があったので、文化村の本屋さんでサティーの本や音符のモビールなどゲットし、開演10分ぐらい前に席に着いたかな。席はS席とはいえ、3階の舞台に向かって右側の二列目。舞台上のピアノが遥か下に見える。でも座ってすぐ、ここはいい音がすると思った。ピアノという楽器は響板が床に対して平行にある。つまりピアノと同じ高さにある席は、直接音ではなく、天板に跳ね返った音を聞くことになる。でも、3階からはピアノの中が覗ける。響板がしっかり見えるということは、ピアノの直接音がここまで届くということ。絶対いい音がすると思った。

さて、開演のチャイムが鳴った。これもなかなかいい音だった。ドとソだけのメロディーに複雑な倍音がまぶされていて、なかなか味わい深くなっている。きっと名だたる現代音楽の作家さんが作ったんじゃないでしょうか。でも、それからが暗転までが結構長かった。面白いことに、その間にお客さんは皆咳払いをしていた。演奏中に咳をしないように、気を使っているのだ。いいお客さんだと思った。また、チャイムから暗転まで、なるほど、時間をかけるのもいいなと思った。その間にお客さんもコンセントレーションしている。でも、そんな気分も、実は続かなかったのです。

さて、いよいよキース登場。満場の拍手。キースの歩き方とか、不思議な感じがした。脱力しているようにも見えるし、やる気が無いようにも見えて、かと言って無造作でもない。とても自然体なのだと思った。彼の演奏はいつものことだけど、いきなり始まる。私は音を出すまでにそれなりに時間をかける、と言うか、かかっちゃうのだが、キースは何かを振り払うように始めるんだよね。なにかよけいな考えが始まる前に、ともかく飛び込んでいくんだ、という決意のダイビングって感じ。音が出た瞬間、思った通りいい音だと思った。遠い分、音量も小さいのだが、これならエネルギーも伝わってくる。最初の曲はテンポのある無調の即興。ヒンデミットやバルトーク的とでも言えるかな。彼の和音を聞いていると、ああ勉強しているな〜って思った。

それと、何故か落ち着いている演奏だと思った。ここ数年の演奏内容の延長上にあると思うけど、CDは何と言うか、ギラギラなんだよね。でもオーチャードホールの3階に伝わってくる音は落ち着いていて、とても聴きやすい。ああいいな〜と思っていると、実は危惧していたことが起こり始めた。隣りに座ったメタボなお兄ちゃんが、もうすでに寝息を立て始めたのだ。キースがどんなにガンガン弾いても、隣のお兄ちゃんのスースーの方が大きいんだよな〜。まいった。何度か肘鉄を優しく食らわして、起こそうとしたのだが、全く意に介していない。ふ〜

そうこうしているうちに一曲目が終わった。すると一階の方のお客さんの一人が、曲がちゃんと終わらないうちに、それこそキースと同じような唸り声を上げて「うお〜〜」とか奇声を上げてる。会場の拍手も、まだ曲が終わらないうちに始まっちゃってる。おやおや、、、

二曲めは無調のバラード。あえて言えばシェーンベルグ的。すきだな〜こういうの、と思いながら聴いていて、やっぱりスーハーなんだよな〜〜。音楽はほんとうに綺麗な一瞬もあるのに、スーハースーハー。曲が終わり美しい余韻が終わらないうちに、また「うおわ〜〜」って唸っている人がいる。は〜〜

三曲目はキースが大好きなスーフィー的な曲。Aのスパニッシューモード。美枝子さん身体を乗り出して、今にも踊り出しそう。でもスーハースーハー、うわお〜!
四曲目はキースの美しいメロディーが、Keyは柔らかいFで、でも、スーハースーハー、うわお〜!
5曲目は早いビバップ。単旋律からオクターブユニゾン、これはいつものキースのお得意、キーはF。スーハースーハー、うわお〜!
5曲目はジャズ・ロック、ゴスペル風だったと思う。スーハースーハー、うわお〜!
そして休憩。

キースの演奏は、勿論どう転んでもキースだったけど、どこかいつものキースっぽくない感じがした。もっと輝きがある人だし、、、
さて、休憩が終わり、チャイムが鳴り、そして影アナが「拍手は音楽の余韻が十分終わってから、して下さいますよう、お願いいたします」だって。私は思わず拍手したね。そしたら会場からも拍手が沸き起こった。ww

第二部。奇声はなくなったし、拍手のタイミングもだいぶ落ち着いてきているんだけど、でもやはり早い。まだまだ余韻が残っているし、音がなくなったって、その後の空白がとっても大切なのにな〜〜。第二部の前半はやはり無調の曲でいいのあったし、バラードももちろん素晴らしい。でもやはり全体にどうなんだろう、、、キースが拍手のタイミングが良くなったので「サンキュー」とか言っていたけど、それでもキースにしてみれば早いと思う。曲間にキースが水を飲んで、そのグラスを無造作にテーブルに置いた音が、大きく反響して、キースが「おお」とか言っていた。

何曲目だったか、ピアノの内部を弾いたあと、美しいバラードが始まった。今夜の演奏の中で一番美しかった。そして最後の余韻は潰された。残念。第二部が終わり、もうアンコールやらないんじゃないかと思った。でも何どもで入りしながら、結局なんとちゃんと3曲もサービスしてくれた。キースは日本が好きなんだな〜。何度かやろうかな〜やめようかな〜みたいなふりをしていたけど、満場の拍手に押されて、ちゃんとサービスしてくれた。キース、ありがと〜〜

さて、私的には、残念な部分は多々あったけど、随分と勉強になったな〜。コンサートというものはCDでは見えない、伝わらない情報が山ほどある。たとえばキースの身の振り方や、ボディーランゲージ。そして、何より会場のお客さんの集合意識。それらが音楽を純粋に聴くということにとって、どういうこと何か、ちょっと判ったような気がした。

私がキースを聴き始めたのは18歳ぐらいだった思う。キース・ジャレット的だと褒められたり貶されたりしたこともある。今でもキースと比べられることが多い。でも、私は彼の足元にも及ばない。少しでもキースの音楽を自分のものにしてみようと試みた音楽家なら、彼がとてつもない努力をしているのが判る。とてもあそこまで辿り着けようもない。オーチャードホールが一杯になるのは、単に日本人好みだからとか、知名度があるからとか、天才だからとかではなく、彼の今までの血がにじむような音楽に対する執念の積み重ねとでも言うものがあるからだ。あの人は音楽に命を捧げている。魂を捧げている。彼の演奏の前に、私はひれ伏すしか無い。

家にたどり着き、庭に椅子を出し、紅茶に映る満月を、美枝子さんと二人で飲みながら、自分はこれからどこに行くのだろうかと、なにげに思ったりしたな〜

ウォン・ウィンツァン
2012/05/07
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by wtwong | 2012-05-07 07:17 | essay