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失われた十度、そして、新しい左手

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 私が骨折をしたことをご存じの方も多いと思います。以前ブログにも書きましたとおり、昨年11月下旬、私の不注意で、壁にオブジェを掛けるためにのっていた椅子から転倒、左手首を骨折してしまいました。約一ヶ月半後、今年の1月上旬にはギブスが取れ、今はリハビリに励んでいます。皆さんには大変ご心配をおかけしています。徐々に回復し、最近はだいぶピアノも弾けるようになって来ました。

 ただ幾らかの障害は残りそうです。最近の医療では骨折はほとんど手術で治すそうです。私は手術せずに保存治療を希望しました。手術の場合は綺麗につながるのだそうですが、ギブスを付けるときの技術の問題か、20度ぐらい斜めに骨がついてしまったようです。そのためにいろいろ支障が出ています。目に見えて大きな問題は、今まで何とかかろうじて届いていた10度の和音が弾けなくなっちゃったことです。10度の和音とは例えば下からドーソーミの和音ですが、なかなかゴージャスな響きがします。でも親指が1cmぐらい引っ込んでしまったようで、今は9度の和音を抑えるのがやっとなのです。

 左手の形が全く違ってしまったようで、10度の和音だけでなく、今までの指使いでは弾けなくなってしまったフレーズも多く、全く新しい左手さんになってしまいました。演奏している時の左手の感覚も、まるで借りてきた猫の左手みたいです。www、ある意味とっても新鮮です。しばらくは新しい左手になれるまで時間がかかりそうです。でもある程度は演奏できている訳で、自分で言うのもなんですが、本当に不思議です。

 今はとっても楽天的ですが、一時は曲がった左手を見つめながら、少しはめげていました。あの時、ああすればよかったのでは、こうすればよかったかも、自分のせい、先生のせい、などなど、、、でも過去を取り戻すことはできません。今の自分の気分は、現状を受け入れて、先に進みたいという気持ちのほうが勝ちました。もし元に戻るのなら、そのうち戻るでしょう。親指がいつかニョキニョキ生えてきて、また10度が弾けるようになるかもしれない。でも戻らなかったとしてもそれはそれでいいのでは。いままで出来ていたことが、出来なくなったという体験はこれが初めて。それは大きな学びです。でも、大した喪失じゃないですよ。これで右手を失ったピアニストの気持ちがわかるなんて言えない。日本には9度しか届かない手でも、プロとして活躍しているピアニストはいくらでもいます。

 左手の骨折から今日まで、実にいろいろ考え、色々体験し、いろいろな意味を見出し、自己の成長の契機になったと思います。でも、左手を奪われたわけではないし、大した怪我ではなかったのだと思います。事故や病気で、大きな喪失をされた方に比べれば、本当にたいしたことないのです。今でも左手で演奏できるのですから、私は本当にラッキーです。

 さて、曲がってしまった左手を慈しみながら、人生を生きていきます。左手がこうなったのは、どんな超越的な理由があるにせよ、どんな宇宙的意味があるにせよ、私の意識を超えて、私の体を通して表現された、小さな小さなエピソードです。この事で私は多分、何かを感じ、そして感じ方を変えることになったと思います。それは掛け替えの無い私の人生のエッセンスです。旅立つ時まで、この曲がった左手を愛して、生きて行きましょう。みなさん、最期まで見届けてくださいね。有難う御座いました。


ウォンウィンツァン
2013/03/05
by wtwong | 2013-03-05 07:39