<画家とモデルー宿命の出会い>中野京子著
画家やアーティストの生き様というものに興味を持ってしまうのは、なにか自分にとって親しい身近な存在に感じているのかしら、、、
それとも彼らの生き様から、なんらかの生きることの深みを感じたいと思っているのか、、、
芸術というものに深く関わった人々(本人、モデル、家族)へのシンパシーがあるのかしら、、、
多分そのどれも、かな、、、
この本に出会わなければ、知ることもない画家たちも沢山いる。
この本に登場する画家は18人、その中で知っている画家、知らない画家は半々だった。
作品だけ知っていていたが、誰が描いたのか、ようやく繋がった画家も何人もいた。
かれらのその生涯や時代背景まで殆ど知らなかったわけだけど、
中野京子さんの解説は、ほんとう惹きつけられるものがある。
ワクワクして一気に読んだ。
そして胸が熱くなったり、苦しくなったり、震えたり、そして何度も涙が出そうにもなった。
そしてどの画家にも、そして対象であるモデルたちにも、深い愛おしさが溢れてきたし、そして切なかった。
ある画家は、危険を犯して、黒人青年のヌードの習作を赤裸々に描いた。
差別主義が横行していた時代に、、、
彼がホモセクシャルであることが明るみになったのは、死後30年経ってからだった。
ルノアールやドガと交流のあったある印象派の女流画家は最後まで社会に認められることはなかった。
それでも、高齢出産のひとり娘を生涯を通して描き続けた。
その絵には、母親としての愛にあふれていた。
ベラスケスは宮廷画家として認められ、沢山の肖像画を残している。
60年余りの人生で、己を語ることが殆どなかった。
日記も手紙も残していない。
しかし特筆すべき作品が残されている。
それは当時、宮廷に潜んでいる小人だったり、障害者を描いているのだ。
その描き方には、王に命じられた絵より、なにか強い存在感、深い眼差しが感じられる。
本の表紙を飾っている絵は、ワイエスのヘルガだ。
これは私でも知っている、世紀の密会だ。
ヘルガは子育てをしながら、工場労働や介護の仕事をしていた。
ワイエスはヘルガをモデルにして、15年の間に、なんと240点以上も描き続けていた。
そのことをワイエスは誰にも明かさなかった。
奥さんのベッツィも、家族も、ヘルガの夫も家族も、、、
ワイエスが70歳近くになったとき、妻ベッツィに打ち明け、その作品群を見せた。
ベッツィはワイエスの理解者でありマネージャーでもあり夫の名声と富に寄与し続けてきた人だ。
そしてベッツィはそれらの作品群を大体的に発表した。
かくして<ヘルガ・シリーズ>は大評判になり、ワイエスは世界的な画家として確固とした地位を得ることになった。
あ~もう胸が苦しすぎる、、、
この本には他に、モロー、ロートレック、ホルバイン、シャガール、モディリアーニ、レンブラントなど、その他初めて知るが画家も沢山いる。
どの物語にも、読みながら心が揺れた。
この本に出会えて、本当に良かった。